大判例

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東京高等裁判所 昭和28年(ネ)887号 判決

東京地方裁判所昭和二十七年(ヨ)第三九三二号不動産仮処分申請事件について同裁判所が同年八月十一日なした仮処分決定はこれを取り消す。

本件仮処分の申請を却下する。

訴訟費用は第一、二審共控訴人の負担とする。

本判決は第二項に限り仮に執行することができる。

二、事  実

控訴代理人は、「原判決を取り消す。債務者(被控訴人)の東京都品川区東大崎五丁目二十六番宅地三百坪八勺及び同所二十七番宅地二百七坪四勺に対する占有を解いて債権者(控訟人)の委任した東京地方裁判所執行吏にその保管を命ずる。執行吏はその現状を変更しないことを条件として債務者にその使用を許すことができる。但し、この場合においては、執行吏はその保管にかかることを公示するため適当の方法をとるべく、債務者はその占有を他人に移転し又は占有名義を変更してはならない。債務者は右地上に建物その他建造物を築造してはならない。」との趣旨の判決を求め、被控訴代理人は、控訴棄却の判決を求めた。

被控訴代理人が当審において陳述した第一審における口頭弁論の結果並びに陳述したものとみなされた控訴状の記載によれば、当事者双方の事実上の主張並びに疎明方法の提出、認否、援用は次のとおりである。

第一控訴人の主張、

(一)  控訴人は、東京都品川区東大崎五丁目二十六番地宅地三百坪八勺及び同所二十七番宅地二百七坪四勺(申請書に二十七坪四勺とあるのは二百七坪四勺の誤記と認める。)を所有し、被控訴人は、これに隣接して同所二十五番宅地百七十坪二合七勺を所有している。

(二)  被控訴人は、最近右その所有地上に建物を建築せんとし、目下基礎工事を施行中であるが、不法にも隣接の控訴人所有地中その境界線二十五間のうち南東の部分長さ十一間幅〇、六七九間坪数七坪五合の土地(以下これを本件係争土地という)を侵し、右地域内に、あるいは穴を穿ち、あるいは土台据付工事を施し、控訴人の数次にわたる抗議にもかかわらず依然工事を中止しない。

(三)  ここにおいて、控訴人は、止むなく被控訴人に対し、所有権に基いて本件係争土地明渡請求の訴訟を提起すべく準備中であるが、これにさきたち、これが執行を保全するため東京地方裁判所に仮処分の申請をなしたところ(同庁昭和二十七年(ヨ)第三九三二号)同裁判所は、同年八月十一日目的土地を本件係争土地にかぎり、かつ建造物の築造禁止を命ずる部分を除き、控訴の趣旨第二項同旨の仮処分決定をなしたが、右仮処分決定は相当であるので、これを控訴の趣旨第二項のように変更の上、認可を求める。

第二被控訴人の主張、

(一)  控訴人の主張事実中(一)の事実は認める。(二)の事実中被控訴人が被控訴人所有地上に建物を建築せんとし目下工事中である事実は認めるが、被控訴人は控訴人の所有地を侵犯した事実はない。控訴人主張の本件係争土地は被控訴人所有の二十五番宅地に含まれるものであつて、控訴人の所有ではない。(三)の仮処分決定のあつた事実は認める。

(二)  右二十五番宅地は元訴外杉浦重吉の所有であつて、大正十三年九月二十日同人から訴外立石知満に、昭和十三年四月五日右立石から訴外千代田土地合名会社に、それぞれ譲渡せられ同会社は同年四月十三日これが所有権移転登記を了し、被控訴人は昭和二十六年七月二十六日同会社から、現場を指示せられ、本件係争土地が右二十五番宅地に属するものとして買い受けたものであつて、本件係争土地が被控訴人の所有に属することは、疑いなきところである。

(三)  仮りに本件係争土地が控訴人主張のとおり控訴人所有の二十六番宅地及び二十七番宅地に属するものであるとしても、被控訴人並びにその前主千代田土地合名会社は、いずれも右事実を知らず平穏公然に本件係争土地を占有し、かつ右占有をなすにつき過失もなかつたのであるから、同会社の占有を開始した昭和十三年四月五日から起算し十年の時効期間の経過により、被控訴人はこれが所有権を取得した。

(四)  よつて、本件仮処分決定の取消を求める。

第三疎明関係、

<立証省略>

三、理  由

控訴人主張(一)の事実は当事者間に争なく、被控訴人が現に本件係争土地を占有し該地に工事を施していることは被控訴人の認めるところである。控訴人は、右係争土地は控訴人の所有にかかる東京都品川区東大崎五丁目二十六番宅番及び同所二十七番地の一部であつて控訴人の所有に属するものであると主張するけれども、控訴人の提出援用にかかる疎明方法によつては被控訴人の提出援用にかかる反対疎明の疎明力が強いため右事審が疎明されたとなすことができず、又保証その他の方法を以て疎明にかえることも適当でない。

されば、控訴人が原審のなした仮処分決定に満足せず、これをこえて求めている部分は固より(仮処分決定に対する債務者の異議は、債務者が仮処分裁判所に対し、同裁判所又は裁判長のなした仮処分命令の当否を、口頭弁論を開いて再審理し、終局判決を以て裁判せんことを求める申立であるから、右異議の弁論において、債権者が異議の対象となつた仮処分決定の定めた処分に満足せず、それだけでは申立の目的を達することができないものとしてこれをこえてさらに必要なる処分を定むべきことを求めることができるかどうかは、はなはだ疑問であり、むしろ消極に解するのが相当であると思われるのであるが、この点はしばらくおく)右仮処分決定も不当であつて、到底取消をまぬかれないので、これを取り消し、本件仮処分申請を全部却下すべきである。

従つて右と同趣旨に出た原判決は、その点においては相当であるが、判決の要件たる事実の記載を全然かくか又はこれをかくにひとしい点において法律に違背するものといわなければならぬ。すなわち、原判決は、事実を記載するにあたり、口頭弁論における陳述に基いてその要領を摘示することなく、「当事者双方の事実上の主張並に疎明方法の提出援用はすべて本件訴訟記録に現われている通りである。」と記載しているのであるが、このような記録の引用は法律の許さないところであるというべく、このことは、民事訴訟法第百九十一条第二項、第三百九十一条、第三百五十九条等の規定の趣旨からみて容易にうかがいしることができるであろう。もつとも原判決は、理由の冒頭に、「本件訴訟の争点は係争土地部分(仮処分決定の目録図面参照)が債権者の所有に属するか、然らずして却て債務者所有の土地の一部であるかという点及び仮にこれが債権者の所有に属するとして本件の如き仮処分をなす必要性ありや否やの点である。」と記載しこれに対する判断をなしているのであるが、なるほど事実の記載は必ずしも理由の記載と別個になす必要なく、事実及び理由として一括してこれを記載することも許されるであろうが、事実とは紛争の出発点となつた事実関係をいい、争点とは紛争の中心となつている事実(これは当事者双方の事実上の主張を対比照合して知ることができる。)及びこれについての証拠をいうのであるから、単に理由の冒頭に上叙のような争点を掲示しただけでは、請求の原因にあたる仮処分申請の理由も知ることができないのであるから事実の記載なきにひとしく、不十分ながら事実の記載をなしたということもできないであろう。果して然らば、原判決は判決の成立手続において法律に違背するを以て、民事訴訟法第三百八十七条によりこれを取り消すべく、この場合事件につきなお弁論をなす必要がないのでこれを第一審裁判所に差し戻さないで自ら裁判することとし、よつて同法第九十六条第八十九条を適用して主文のとおり判決した。

(裁判官 大江保直 猪俣幸一 飯田一郎)

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